CMネタはすぐ風化するぞ

「則子ォォォーーー!」

則子は買い物袋をパサと地面に落とした。
今晩の肉じゃがの具を買った、スーパーの帰りだった。
何やらマンションの入り口が騒がしい。パトカーが停まっている。
よく見ると雄一郎が警官二人に両肩を抱えられて階段を降りてきた所だった。
雄一郎は則子の姿をみとめると、Tシャツが引きちぎれんばかりに暴れだした。
「こ、こら!大人しくしろ!」
「則子ォォォーーー!」
則子は雄一郎の目を見つめた。
雄一郎は顎をしゃくる動作をした。
則子はその無言の動作を理解した。「行け」と…
「早く乗るんだ!」
パトカーの後部座席に座る雄一郎の顔がどんどん遠ざかってゆく。
「何かの間違いです!夫を返して!!」
迫真の演技だった。うなだれて何処かへ去る則子の姿は、
誰の目にも取り残された憐れな妻に見えた。
逃避行の始まりだった。


・ ・ ・


追っ手の足は速く、則子はとある岬の崖の上にたたずんでいた…
風に身を任せようとしたその時!
ガシッと腕を捕まれた。
「イヤ!刑事さん離して!」
「奥さん!まだ人生はやり直せる!それにあんたには子供もいるんだぞ!」
「ああぁ雄太ぁぁ…」
則子はその場に泣き崩れた。


刑事はつぶやいた。
「0120-333-906…」